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平手友梨奈主演で話題の映画「響 HIBIKI」
「響 -HIBIKI-」は柳本光晴の漫画「響〜小説家になる方法〜」を原作に実写化した作品であり、欅坂46の平手友梨奈が映画初出演・初主演をつとめたことで話題になった映画である。
監督は「黒崎くんの言いなりになんてならない」「君と100回目の恋」「君の膵臓をたべたい」「センセイ君主」などの月川翔。 2018年9月14日に劇場公開された。
原作の漫画の存在は知っていたが読んだことはないし内容も知らず。ただ、映画には平手が主演したという話題性で興味を持ち、ぶっ飛んだ主人公・響がどうやら周りの大人を変えていくらしい、というストーリーが気になり、見てみることにした。
「平手の演技がハマっている。最高」という世間の評価も耳にしていたが、そんなことより響が大人たちを変えていく、その部分に特に関心があった。いったいどのような言葉や行動で大人たちの心を変えていくのか。
なんなら視聴者である僕も喝を入れていただけるんじゃないかと、そんな期待を込めての視聴だった。
期待とは裏腹に・・・
見終わると、とても長かった。面白くなかった・・・。
響の言葉や行動は僕の心にはどうにも刺さらず、映画鑑賞としてはかなり退屈な時間を過ごすことになった。なぜだ・・・世間の評価は高かったと思ったのだが。
きっと面白くないと感じた理由は自分の心の中にあるはず。なので原因を掘り下げていくことにした。
面白くなかった原因を探る
まず映画の流れを振り返ってみる。
- 新人賞への応募原稿が出版社に届く。響という名の人物が書いたその原稿は編集者・花井ふみに衝撃を与える。
- 主人公・響は本好きな高校生であり、文芸部をたまり場にしていた不良や部長・リカとのやり取りから、言葉を言葉通り受け取ってしまう一面、やると決めたらやる一面、なんとしても我を通す性格がわかる。
- 響の原稿が出版業界で話題になっていき、響と出版業界、他の小説家との関係性ができあがっていく。
- 響は破天荒な言動でリカや花井、周りの大人たちに影響を及ぼしていく。キジマ、田中、記者、出版会社の面々、小栗旬を変えていく。
冒頭、応募原稿が届いたシーン。ここでは、この原稿が物語を動かしていくのだろうとワクワクできる。
続く学校でのシーン。響がどういう人物で、どういう日常を送っているのかを見せる役割。本が相当好きであること、自分の意見は曲げない人物であることがわかる。そして絡んできた不良の指を折るというカットによって、どうやら普通の人物ではないことがわかる。
その後、出版業界で響の原稿が話題になることで響の交流が外へと向かっていくわけだが、これ以降「主人公・響の努力や成長、危機やその危機を乗り越えて変わっていく姿」ではなく「主人公・響という人物の異常さにかき回され、影響され、変わっていく周りの人たち」の姿が描かれていく。
重要なこと
映画「響 -HIBIKI-」には主人公の苦難や成長といったドラマは存在しない。そのため視聴者が感情移入するとしたら「響に影響され変わっていく周りの人たち」ということになる。
主人公・響が掲げる映画全体での目的は「自分を曲げないこと」であり、役割は「他人に変化を与えること」だ。よってこの映画には、
- 響という存在の影響力が存分に描かれていること
- 視聴者が響の周りの人たちに感情移入でき、響という存在に影響され一緒に変われること
が求められる。となるとこの映画の見どころは、
- 響の人となり、言動
- 響の周りの人物たちの変化の描写
である。
響の人となり、言動について
響に関して気になったのは、暴力である。
響は作中で何度も他人に暴力をふるう。理由は喧嘩を売られて、だったり、友達がいじめられていたから、だったり。
暴力をふるってから言葉で諭す、という展開がキジマに対して、田中に対して、の2回ある。キジマの方にふるった暴力は「リカを助けるため」で正当性が(いちおう)あるし、そのあとキジマに投げかけた「昔は天才だったのに今は何やってんの」という言葉も、キジマの心を変えるシーンとしてとても良かった。
だが田中に対する暴力は「喧嘩を売られたから」という理由であり、その後の駅ホームでの会話も、先の暴力によってすっかり萎縮した田中が折れた、という描写に見えてしまった。せっかく響が「読んでない作品にケチつけるのは卑怯だ」という名言を放つも、暴力シーンのせいで薄れてしまったように感じた。
「喧嘩を売られたから」という理由で響がふるう暴力のもう一つに冒頭部室での指折りがあるが、やはりこの2つの暴力シーンはシンプルに頭オカシイとしか思えなかった。
また、暴力について担当編集者である花井から「どんな理由があろうとも暴力はダメ」と指摘されるカットが2回あるが、どちらも響の回答は「だんまり」で、そしてまた暴力を繰り返す。「だんまり」はズルくないだろうか?それはかっこよくないのではないだろうか。
上記のように、響の人となり、言動には、共感できない要素があった。
響の持つ「他人を変える影響力」が彼女の持つ強い信念や意志ではなく、ただの暴力性によるもの、と映ってしまうのはもったいない。「殺すって言われたから殺されないようにしただけ」「殴るって言われたから殴っただけ」なんていう理由以外の、もっと正当な暴力と、そこに秘めた響の信念や意志が見たかった。
それがあれば、憧れの対象として見ることが出来たと思う。
響の周りの人物たちの変化の描写について
響が影響を与えていく周りの人物たちに関しても、人物背景の薄さやひとりひとりの響との絡みの薄さが気になった。
良かったのはキジマである。過去の栄光と今の失墜が語られ、響の原稿と言葉によって少しだけ心が変わる。その後ニュースに出演すると響をプッシュする発言をする。とてもいい。
だが新人賞の田中はどうだろう?突然現れ、バイト先でキレるシーンから小説への熱意は感じるがすぐ響の暴力で屈服する。その後たとえ響の小説を読んで「マジ心震えたから」なんて言っても、その心境の変化に感情移入は難しい。田中の努力も苦労も不明だし、響の小説のすごさもいまいちわかりづらい。
小栗旬が演じた売れない小説家・山本との絡みは良かったが、彼の小説が誰かを喜ばせている描写があればもっと良かった。響もせっかく「豚小屋の豚」を読んでいたのに面白いもつまらないも言わない。誰かがどこかで一言でも「山本春平の小説が面白い」と言っていれば、芽が出ず親孝行もできなかったつらさ、それでも誰かを喜ばせている事実により共感でき、踏切での響の言葉の刺さり方も変わったはず。
編集長・神田に至っては、もはや響は彼の心にはまったく影響を与えていない気がする。響は影響を与えない、響の障害にもならない、視聴者も感情移入する対象じゃない。そうなると、果たしてこのキャラは必要だったのだろうか・・・。
その他にも
その他にも気になったシーンがいくつかある。
まず話題になった屋上から落ちるシーン。このシーンの平手のすごさを語る声も多い(ほんとに落ちたらしいので)が、映画の中でのこのシーンの意味を考えると「モブキャラを部員に加えるため」だろうか。たしかに絵にはなるが、ストーリー上そこまで重要だったのか?と思ってしまう。
続いて田中としゃべる駅ホームのシーン。電車が入ってきて、田中か響、どっちかが落ちてしまうんじゃないかという思わせぶりの演出。けっきょくなんにも起こらず、果たして何の意味があったのだろうか?
動物園のシーンも、動物とじゃれる平手は可愛かったが、ストーリー進行に必要だったのだろうか。
制作側が気合を入れたシーンの気合度と、ストーリー上でのシーンの重要度や意味がチグハグに感じてしまい、気になった。
それでも良い部分はあった
いろいろ書いてしまったが、それでも好きなシーンやセリフはある。
セリフでは、田中に向けて言った「読んでから非難しろ。読んでないのに非難するのは卑怯」だったり、自殺しようとした山本に投げかけた「他人が面白いと思った作品に作者の分際で何ケチつけてんの」だったり。
W受賞会見で発した「誰にどう思われても書きたいから書く」だったり、リカに向けて言った「ふみはつまらなくしろって言ったの?他人のせいにするな」だったり。(一字一句覚えていなくて申し訳ないが)
記者(野間口徹)とのやり取り「あなたとしゃべってる。周りとか世の中とか関係ない」も良かった。たしかに今の世の中、自分の意見を持たず「周りが言ってる」という言い回しで自分を出すことを避けている人は多いと思う。これは素直に気をつけなきゃなと思った。いいセリフだ。
あと、キジマ先生が出ているシーンは全部好きだ。
響が著名な小説家に握手を求め、「あなたの小説、好き」と言うシーンも良かった。好きを好きと言えるのは素晴らしいことだと思う。それすら言えない人生を送る人もいるから。握手したあとの手を嬉しそうに見つめる平手も可愛かった。
そうだな。主演の平手は、良かったと思う。(雑なシメだが本当に)
まとめ
長くなってしまったがまとめる。
- 響がその言動によって大人たちをどう変えていくのか期待していた
- 映画の構成上、「響の影響力の描写」と「視聴者を響の周りの人物へ感情移入させること」が求められたと思う
- 「響の影響力」の描写で暴力に頼る部分があり残念だった
- 「周りの人物に感情移入」するにはもう少し描写がほしかった
- それでも良いセリフや好きなシーンはあった
- 平手が良かった
映画「響 -HIBIKI-」は、見終わったときは正直あんまり面白くなかった。
ただ、その理由を自分の中に探る時間は、難しくて頭を抱えながら、でも楽しくて、結果愛着のわく作品となった。
時間を置いて、また自分の価値観が変わったときに見てみると新たな発見があるかもしれない。それに期待しようと思う。
見ていない人は、ぜひ自分の目で見て確かめてみてほしい。
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