映画「ファウンド」、考えさせられる良い作品だった。
主人公マーティは学校でいじめられていて、その兄スティーヴは殺人鬼であり愛する弟を傷つけたやつを殺す。
我々も日常で誰かに虐げられたとき「ちくしょう、あんなやつ死んでしまえ!」と冗談でも気軽に思ったことが一度くらいあるだろう。スティーヴはマーティを害するやつを本当に消してくれる存在で、それってまさしくダークヒーローじゃないか?
- 自分が誰かに傷つけられ、そいつを殺したいと思う気持ち
- 自分を傷つけるやつをやっつけてくれるダークヒーローの存在
という部分に注目して、「現実に自分を救ってくれるダークヒーロー(=殺人鬼)がいたらどうなるか?」「一番狂っているのは誰なのか?」というテーマに気づけたら化ける作品だと思う。
作品情報
- タイトル 「FOUND ファウンド」
- ジャンル ホラー
- 製作年 2012年
- 製作国 アメリカ
- 監督 スコット・シャーマー
- 原作 トッド・リグニー
- キャスト ギャビン・ブラウン、イーサン・フィルベック
あらすじ ホラー映画好きでいじめられっ子のマーティは家族の秘密を盗み見るのが楽しみ。父はガレージにヌード雑誌を、母はベッドの下に夫以外の男からのラブレターを、そして兄のスティーヴはクローゼットに本物の生首を隠している。普段は優しい兄にマーティは学校でのいじめについて聞かれる。その数日後、クローゼットに隠してあったのはクラスメイトのいじめっ子の生首だった・・・。
この物語は映画の中だけの話なのか?
ファウンドはホラー映画なのだが、この作品の持つ怖さは「誰にでも起こりうる話かもしれない」と思わされること。
学校でいじめられるマーティ、大人には「暴力でやり返しても解決しないから大人に相談してくれ」と言われ、まるで自分がおかしいように言われる。
そこで思ってしまう。「あんなやつ、死ねばいいのに」
そしてマーティの兄であり殺人鬼のスティーヴもただ殺すわけじゃない。「あいつらは害悪だ。マーティを傷つけた?なら殺してやる」という理由なんだ。
マーティのように誰かに傷つけられる経験は多くの人がするだろうし、俺もマーティの抱く生きづらさ、もどかしさにはすごく共感してしまう。
そしてスティーヴを見ていると実際に人を殺してしまうのはハッキリ悪だとわかっても、じゃあ心のなかで「あいつ死ね」と思うのはセーフだと言い切れるのか?と不安になる。
思ってしまっている時点で、誰だってスティーヴになってしまう可能性を秘めているんじゃないのか?
そう考えたら、映画を飛び出したこの現実でもいつでも誰にでも起こりうる話だと感じてしまう。
だから怖い。
「ファウンド」はそういう恐怖を突きつけてきた。
ダークヒーロー=殺人鬼。存在は許される?
「ファウンド」を見て俺がダークヒーローにこだわる理由は映画の中でそういう描写があるからで、確実に重要な軸の一本になっていると思う。
- マーティと友人デヴィッドはマンガを書く。紙袋をかぶったバッグランチとゴキブリの姿をしたゴキブリマンが悪人を残虐に殺す内容
- 兄の部屋にある生首を盗み見ていることがバレたあと、マーティはそのマンガを燃やしてしまう
- 「お前を傷つけるから殺すんだ!」というスティーヴにマーティがやめてほしいと抵抗する
マーティの心理的な揺れ動きも垣間見えるからその辺も見どころ。
ちなみに俺の結論としては、ダークヒーローだって人を殺すなら殺人鬼だから存在しちゃいけない。でも心のなかで「あいつ死ね!」と思うのは、思うまでなら正常である。
「死ね」とすら思っちゃいけない、ってのは難しいでしょ?きれいごとは言えないよね。
劇中劇「ヘッドレス」のグロさだけが要注意
ちなみにマーティと友人デヴィッドが「ヘッドレス」という映画を見るシーンがあるんだがここはマジで気分が悪くなった。
この「ヘッドレス」という映画の中の殺人鬼、しばりつけた女性の胸を削いだり首切り落としたり目ン玉くり抜いて食べたり血のシャワーを浴びたり生首に自分のナニをアレしてエクスタシーしたり、とにかくやべえ。
兄スティーヴがこの映画に影響されているのではないか、とマーティが気付くシーンなので欠かせないんだが、それにしてもなぜかやたらと殺人シーンの尺が長くて途中でオエッとなる。
「ファウンド」自体は生首が出てくるくらいでしかもまぁまぁ作り物っぽく見えるので耐えられるんだが、劇中劇「ヘッドレス」の残虐描写はわりと気軽に見ていいもんじゃないな。
ここだけ、苦手な人は要注意。
まとめ
- 誰にでも起こりそうな現実味や静かな狂気に引き込まれるホラー
- 「死ねばいいのに」という気持ちやダークヒーローについて考えさせられる
- 劇中劇「ヘッドレス」のグロさだけは注意
「42冠制覇」とか「完璧なラスト」なんていう煽りにひかれて怖いもの見たさで見てみたけど良作だった。でもまぁ子供には見せられないな。
今後なにか嫌なことがあったら心のなかでスティーヴを召喚したら安心だ。でもやっぱりいけないことなんだと思わせてくれるマーティにありがとう。
兄弟の物語の結末はぜひその目で見届けてくれたまえ。
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